大判例

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大津地方裁判所 昭和24年(行)9号 判決

原告 柏原丈作

被告 滋賀県農地委員会

一、主  文

訴外滋賀縣犬上郡河瀬村農地委員会が原告所有の同村大字廣野字藪ノ下百七番地宅地五十二坪六合四勺につき昭和二十四年一月二十一日樹立した買收計画並びに、同計画に関する原告の訴願に対し被告滋賀縣農地委員会が同年三月一日に爲した訴願棄却の裁決はいづれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として訴外滋賀縣犬上郡河瀬村農地委員会は、原告所有の主文掲記の宅地につき昭和二十四年一月二十一日自作農創設特別措置法(以下單に自作法と略称する)第十五條に基き買收計画を樹立したので、原告は同年同月二十四日右農地委員会に対し異議を申立てたところこれが却下せられたので、同年同月二十七日被告に対し訴願したが被告は同年三月一日右訴願を棄却する裁決を爲した。しかしながら右は左記の事由により違法である。

(一)  右宅地の買收申請人たる訴外北川吉次郎は買收農地の賣渡を受けた者ではないから本件買收申請を爲す資格を有しない。

(二)  仮りに資格を有するとしても右宅地は、原告が昭和十三年五月十二日同訴外人に対し十年の期間を定め家屋所有のため使用することを許し無償で貸與したものであるが、右使用貸借は、昭和二十三年五月十二日期間満了により終了しているから同訴外人は本件宅地につき自作法第十五條第一項所定の権利を有しない。

(三)  仮りに右権利を有するとしても同訴外人は賣渡を受けたと称する農地と右宅地との間には相互利用関係がない上、右宅地は右訴外人所有の家屋で充たされ農耕のため利用する余裕地なく、右訴外人が農地買收申請を爲した昭和二十二年末から一ケ年を経た後漸く本件宅地の買收申請を爲していることは、同人の農耕上本件宅地が必要でないことを示すものである。更に

(四)  本件買收計画は本件宅地の実測面積よりも多い公簿上の面積によつて樹立せられているが、かくては買收地が隣接の第三者の所有地に迄及ぶ不当な結果となる。よつて、原告は以上の理由により本件買收計画並びに裁決の取消を求めるため本訴に及ぶと述べた。(立証省略)

被告指定代理人等は、本案前の抗弁として、本件買收計画の取消を求める訴はその処分廳たる河瀬村農地委員会を被告とすべきものであるから、却下せられるべきであると述べ、本案につき「原告の各請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、原告主張の各日に、その主張通りの買收計画樹立、異議申立、同異議却下決定、訴願並びに同訴願棄却の裁決が爲されたことはいづれもこれを認めるが、その余の原告主張事実は総てこれを爭う。即ち(一)訴外北川吉次郎は既に田一反十八歩の賣渡を受けている者であり、又(二)原告は同訴外人に対し本件宅地をその上に家屋を所有することを目的として、隣地百八番の土地と共に、期限十ケ年賃料年三円の約で貸與し右期間は借地法の規定により延長せられている結果本件買收計画樹立当時訴外北川は本件宅地につき賃借権を有したのであり、(三)訴外北川は本件宅地上にその居宅を所有するばかりでなく、本件宅地を農業收穫物の調整或いは乾燥場として利用しているから本件宅地は訴外北川の農耕上必要不可欠であり自作農の地位の安定を図るため、本件宅地を買收することは農地改革の趣旨より当然であつて、本件買收計画並びに裁決はいづれも適法であり、原告の主張は理由がないと述べた。(立証省略)

三、理  由

先づ被告の本案前の抗弁につき考えてみるに、行政処分の変更又は取消を求める訴において特にその処分廳を被告とすることが許されるのは、処分廳は自己の権限に基き爲した行政処分は、これを取消し又は変更し得る権限を当然保有するものである上に、訴訟手続上当該行政処分につきその責任を有し且つ事情に明るい処分廳を被告とするのが、最も便宜且つ妥当であるとの趣旨に外ならないと解すべきところ、都道府縣農地委員会は市町村農地委員会の立てた農地等買收計画をその訴訟手続において取消し又は変更し得る権限を有し且つ買收計画につき訴願並びに裁決を経た後にあつては、その買收計画の内容或いは実情を知悉しているのであるから裁決廳に対し裁決の取消を求める訴においてその裁決の基礎たる買收計画の取消をも併せて求めることを許しても毫も不都合なく、否むしろ訴訟経済に添う所以であるから原告は訴願に対する裁決の取消を求める本件に於て滋賀縣農地委員会を被告として河瀬村農地委員会の立てた買收計画の取消をも併せ求めることは何ら不適法でないと云うべく被告の抗弁はこれを採用することができない。

よつて進んで本案につき審究するに原告主張の各日に、その主張通りの買收計画樹立、これに対する異議申立、同異議却下決定、訴願、同棄却裁決がそれぞれ爲されたことは当事者間に爭いがない。そして本件宅地買收申請人たる訴外北川吉次郎が買收農地の買受人でないとの原告主張事実については、これを認めるに足る証拠がなく却つて成立に爭いのない乙第七号証によれば、同訴外人は自作法に基く買收農地たる彦根市西今町上郷市三番田一反一畝五歩の賣渡を受けた者であることを認めることができる。しかし乍ら成立に爭のない甲第一号証、同第三号証の一及び二、同第四号証、証人柏原佐次平の第一、二回、同柏原一夫の各証言並びに原告本人訊問の結果を綜合すれば、原告は昭和十三年五月十二日訴外北川吉次郎に対し、本件宅地所在原告所有の家屋を相当な時價である金二百五十円を以つて賣渡し、同時に、本件宅地に隣接する畠地を時價としては高くない賃料年金三円期間十ケ年の約を以つて貸與すると共に本件宅地を無償、期間十ケ年の約を以つて使用することを許し、右期間内に右家屋を訴外北川において他に移轉せしむべきことを約し右土地の貸借契約書作成にあたり、代書人が誤つて右畠地並びに本件宅地を一括して賃料年金三円、期間十ケ年を以つて貸借する旨の賃貸借契約書を作成したが、右契約当事者並びに立会人訴外柏原佐次平が右契約書の誤りを知り乍ら訂正することを面倒と思い、又後日この点につき紛爭が生ずることもあるまいと考え、そのままに放置したものであり、右契約において、当事者の眞意は本件宅地についてこれを使用貸借とするにあつたことを認めることができ、成立に爭いのない乙第一号証並びに証人北川吉次郎の証言中右認定に反する部分はいづれも前顕各証拠に照らし信用することができず他に右認定を覆えするに足る証拠はない。從つて右使用貸借は昭和二十三年五月十三日期間満了により終了していることは明らかであり、本件買收計画樹立当時訴外北川吉次郎は本件宅地を使用すべき何らの権利を有しなかつたのであるから本件買收計画は自作法第十五條第一項第二号所定の宅地買收の要件を欠き、違法であると云わねばならない。

更に本件宅地が自作法第十五條の買收適地であるかどうかの点について考えてみても、前示信用しない部分を除く証人北川吉次郎の証言によれば、本件宅地の買收申請人たる同証人の既に賣渡を受けた農地は本件宅地から近道によれば約八町、普通の道によれば約半里の距離に在り、その他の耕作農地は本件宅地より一里余の距離にあること、本件宅地には建物敷地以外の空地は少なく、農耕收穫物の乾燥等に十分利用できないので、右乾燥のためには同証人居宅裏の川原を使用してをり、收穫物の調整等は農業組合其他の施設を利用して爲し得ることを認めることができ、他にこれを覆えすに足る証拠はなく、又本件宅地所在の部落内に同人長男所有名義の宅地が存することは当事者間に爭いのないところであつて右各事実を綜合して判断すれば、本件宅地は主として訴外北川吉次郎の居宅の敷地として使用されているものであつて、右北川が賣渡をうけた前記農地に対する從属性を有せず、また前記農地の農耕のための必要性も極めて薄く、自作法第十五條の趣旨より考えて同條による買收対象とするには不相当の宅地と認定せざるを得ない。

以上の理由により本件宅地を自作法第十五條により買收せんとする本件買收計画並びに訴願棄却の裁決は右いづれの点からしても既に違法であることは明らかであり、到底取消を免かれないものであるから、爾余の爭点に関する判断をまつまでもなく原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小石寿夫 渡島明 東民夫)

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